今回は「祈りをつなぐ道中」。
過去と今が交差し、祈りが積み重なっていく瞬間を綴ります。
第2話|祈りをつなぐ道中
7時19分。
セブンイレブンでツナマヨネーズおにぎりを2つ買う。
気づけばちょうど普段の出庫時間だった。
「また仕事かい」と自分に突っ込みながら笑った。
違うのは──今日の後部座席はお客様ではなく、
家族(マルくんとプーくん)だということ。

プーくん おにぎり、またツナマヨかよ……。
マルくん おいしいけどさ、マクドならフィッシュバーガー、びくドンならチーズバーグディッシュでしょ?
職業病と小さな発見
7時33分。
車は通勤ラッシュ前でゆっくりと流れている。
後部座席の犬たちは、まだ落ち着かない。
京橋駅を通過したとき、無意識に「手上げを探してる自分」に気づいて吹き出した。
完全に職業病だ。
でも今日は違う。
景色を楽しむ余裕がある。
「こんなお店あったんやな」──
そんな小さな発見が続いていく。
神戸の街並みに蘇る記憶
9時13分。
神戸タワー横を通過する。
サラリーマン時代に支社長を務めた頃の記憶が蘇る。
数字に追われ、人に追われ、心を削った日々。
あの頃の自分に、今の僕は伝えたい。
「犬と一緒に自由に走ってるぞ」と。
須磨シーワールドの看板を見れば、去年の夏の家族旅行を思い出す。

両親、妹家族、甥っ子。
みんなで行った楽しい時間。
元気に走り回っていた甥っ子が、今はリハビリに励んでいる。
だからこそ、今日の祈りには意味がある。
プーくん リハビリ、がんばれ。ぼくも走るの大好きやから気持ちわかるよ。
左に海、右に電車。

そんな素直な感想が自然に出てくるのは、
流れに任せて走っている証拠だ。
やがて明石大橋が見えてきた。
土地ごとに変わる旅の色
10時9分。
明石大橋を過ぎたところにある、道路沿いの公園で犬の散歩。

マルとプーが草の匂いを嗅ぎながら嬉しそうに歩いている。
マルくん 草の匂い、最高やな!ここで走りたいわ〜!
プーくん 旅って、ほんまにおもしろいなぁ🐾
10時59分。
加古川を通過。
加古川バイパスは風が気持ちいい。
姫路ナンバー、岡山ナンバーの車が増え、
大阪ナンバーは消えた。
土地の色が変わり、僕の中でも
「ここは旅先だ」という感覚が濃くなっていく。
たつの市街を通りながら、20年前にここでも仕事をしたことを思い出す。
親戚のお姉ちゃん夫婦もこの辺りに住んでいた。
もし自分がこの土地で生まれていたら、
人生はどうなっていただろう。
そんな想像をしながらハンドルを握る。
僕の人生は大阪を起点にしか展開していない。
だがこうして別の土地を走ると、
もう一つの可能性が見えてくる。
岡山ブルーラインから瀬戸大橋へ
12時1分。
岡山県に入る。
看板に「岡山ブルーライン」と出ている。
その文字を見ただけでワクワクしてくる。
12時41分。
黒井山グリーンパークで休憩。

めだか釣りもやっていて、ちょっと心惹かれたけれどやめた😅

マルくん アンパンマンかっこいい!
プーくん 頭、ジャムおじさんに交換お願いしたら?
13時2分。
岡山市に入る。広がる田園風景。
信号に引っかかったのは、実に1時間ぶりだった。
都会ではありえない感覚だ。
13時28分。
そろそろ高速に乗ろうかと考える。
旅は寄り道が楽しい。
下道で費用を抑えた分、ここからは時間を買う。
プーくん ……やっと高速?べつに急いでほしいわけじゃないけどさ。
でも、遅いとちょっとイラッとするんだよね。
マルくん まぁまぁ。のんびり行こうや。
僕は風の匂いを嗅ぎながら走るのが好きやで🐾
水島インターから高速へ。
100キロで走れる道で、あっという間に瀬戸大橋が近づいてくる。

開通したばかりで、家族みんながワクワクしていた。
あの頃は「大きな橋」くらいの認識しかなかった。
けれど今は違う。
橋を渡れること自体がありがたい。
ここまで無事に走ってこれたことに、感謝がこみ上げてくる。
窓の外に広がる瀬戸内海はきらきらと光り、
巨大な橋脚がひとつひとつ視界を横切っていく。
マルくん わぁ〜!海の匂い、風が気持ちいいなぁ!
プーくん 高いとこはちょっと怖いけど……でも、すごい景色やな。
思わずスマホで動画を回した。
橋を渡る数分間を記録に残しておきたかった。
後から見返せばきっと、今日の気持ちがよみがえるはずだから。
「ただの移動」じゃない。
善通寺に呼ばれて
思い返せば、令和元年のお遍路も同じだった。
ココアと一緒に仁王門を巡り、御朱印をいただいた日々。
夜は車中泊、朝は鳥の声で目覚める。


小さな体で10日間を一緒に旅してくれた相棒。
犬と一緒だからこその苦労も多かったが、あの旅は確かに僕を支えてくれた。
そして今。
ココアはいない。
代わりにマルとプーがいる。

新しい旅の相棒として、祈りを受け継いでいる。
プーくん ……善通寺って、そんなに特別なとこなん?
マルくん 空海さんの生まれた場所やで。ご縁のある人は自然と呼ばれるんや。
これは偶然ではない。
善通寺は「行こう」と思って行く場所ではなく、
「呼ばれて行く場所」なのだ。
タクシーの仕事も同じだ。
狙って待つより、流れに任せた方が良いご縁に恵まれる。
この旅もそうだ。
流れに任せたからこそ、家族や犬、そしてご縁ある人たちの思いが一本に繋がった。
僕は強く思った。
「この祈りは、僕ひとりのものじゃない」
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